現代を生きる人々が高い関心をもつ言葉、「アイデンティティ」。
「アイデンティティが薄れている」「ローカルアイデンティティが大切だ」「アイデンティティの形成が遅れている」などなど、さまざまな文脈で使われるアイデンティティという言葉。では一体、どれほどの人はアイデンティティという言葉の意味を説明できるでしょうか?
本記事では、アイデンティティについて専門的な知見から解説した本を9冊紹介したいと思います。怪しげな自己啓発本などは含んでおらず、全て初心者向け~上級者向けの研究書です。研究所と聞くとギョッと思うかもしれませんが、読んでみるとどの本もとても為になるので、ぜひ買って読んでみてください。
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アイデンティティ: 青年と危機
アイデンティティといえば、本書!アイデンティティ概念をつくり普及させたエリック・エリクソンの古典的名著です。
本書は1968年に出版され、最初の邦訳が1969年に刊行されました。以後、世界中で読み継がれ、アイデンティティの概念は心理学の世界を超えて、私たちの人間理解に深く、大きな影響を与えてきました。その影響が今日でも大きいことは、他社からも近年、エリクソンの本の新訳が刊行されていることからもわかります。
しかしこうした状況においては、エリクソンの概念が普及するにつれてあまりに単純化され、本来のエリクソンの思考の複雑さ、深さが失われてしまっている部分も残念ながらあります。しかし原典を読むと、エリクソンが古びるどころか、今日の私たちにとっても本質的な問いを提示しており、正に人間探求の古典の一冊であることがよくわかります。
2017年発刊のこの新訳は、原著に忠実にゼロから訳し直し、かつ読みやすい日本語になっています。初めてエリクソンを読む人にも、改めて読み直したい人にも、まず手にとっていただきたい、エリクソンの思想の神髄に触れる1冊です。
脱アイデンティティ
監修はフェミニズム研究や家族研究、女性学研究で知られる上野千鶴子さん。本書は「アイデンティティ強迫」にとりつかれた、近代社会および近代社会学理論へのレクイエムを意図して書かれたといいます。
タイトルの通り、従来のアイデンティティ理論から脱し新たなアイデンティティ理論の確立を標榜する本書は、アイデンティティの強いられた同一性から逃れたいと考える人々によってこそ担われています。執筆者は伊野真一、浅野智彦、三浦展、斎藤環、平田由美、鄭暎惠、小森陽一、千田有紀など現代日本を代表する論者ばかり。
「人はアイデンティティなしでは生きられないのか?」「一貫性のある自己とは誰にとって必要なのか?」アイデンティティにまつわる本質的な問いに鋭く切り込む1冊です。
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現代社会の中の自己・アイデンティティ
社会状況と密接にかかわる自己・アイデンティティの形成と在り方について、その多源性、流動性、状況依存性が指摘されるいま。これからの時代の自己・アイデンティティを、さまざまな視点から考察し、「生きること」への視座を示すのが本書です。
以下に目次を載せましたが、多様な論者が様々な角度からアイデンティティについて論じています。発行も2016年と比較的最近なので、タイトルの通り現代におけるアイデンティティをめぐる議論にいて多面的かつ包括的に知りたい人におすすめです。
Ⅰ 自己・アイデンティティをつくる
1章 日本人の自己と主体性(中間玲子)
2章 青年期はアイデンティティ形成の時期である(溝上慎一)
3章 アイデンティティから世代継承性へ(岡本祐子)
Ⅱ 自己・アイデンティティを生きる
4章 現代社会におけるキャリアとジェンダー(安達智子)
5章 高齢者のアイデンティティ(野村晴夫)
6章 流動的社会の中のアイデンティティ(浅野智彦)
Ⅲ 自己・アイデンティティを超える
7章 マインドフルネスと自己(伊藤義徳)
8章 自己形成に内包する死と生(森岡正芳)
9章 内と外を超える 多文化共生社会における自己(佐藤德)
Ⅳ これからの時代の自己・アイデンティティ
終章 現代社会におけるアイデンティティ(梶田叡一)
アイデンティティ/他者性
少ないページ数ながらわかりやすい解説で定評のある「思考のフロンティア」シリーズ。本書は、抽象的な考え方ではアイデンティティ/他者性という問題の核心には到達することはできないといいます。肝心なのは個々の「私」におけるその在り方。プリーモ・レーヴィ、パウル・ツェラン、金時鐘などの具体的な表現者を引用しながら、アイデンティティについて深堀しています。
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アイデンティティの心理学
心理学的な側面からアイデンティティについて解説した本。本書によれば、若者が常に現在の存在を模索し、将来を展望し、自分の存在を吟味していくような歴史と時代の中で、「アイデンティティ」は揺れ動く自分の存在意識をさしているという。
本書はさらに続ける。このような歴史と社会状況との交点に存在する自己の表現する適切なことばが、これまでなかった。アイデンティティという言葉が、この状況をとらえ、表現する言葉として現れたとき、人々はそのイメージの喚起力にとらえられたのであろう。これ以降、この用語を抜きにして、問題を語れなくなってしまったといってもよい、と。
モダニティと自己アイデンティティ ――後期近代における自己と社会
イギリスを代表する社会学者 アンソニー・ギデンズの名著。2021年に待望の文庫版が登場!ギデンズによれば、後期近代と呼ばれる今日の社会では、常に新たな情報に開かれ、継続的変化が前提となるため、自己は新たな可能性とこれまでは経験してこなかったような苦難をかかえるという。独自の理論的枠組みを作り上げた近代的自己論であり、アイデンティティの苦難を解く古典です。
個のアイデンティティ―誰かであること、誰でもないこと
本書の問いは「独り善がり、という意味ではない個人主義とは何か」です。集団への類的人間と孤立した個的人間の両極の間で、はたして人はアイデンティティを確立できるのか? 既成のパラダイムを超越するための個人主義・アイデンティティを実証・検証することを試みた挑戦的なアイデンティティ研究本です。
アジア新世紀〈3〉アイデンティティ―解体と再構成
20世紀に自明のものとされてきた「民族/国家」の認識枠組みが世界的にゆらぐなか、流動化の進むアジア多元社会におけるアイデンティティはどのように再構成されてゆくのか、これが本書の軸となる問いです。
これまで紹介してきた本は自己としてのアイデンティティを指す本が多かったですが、本書では国籍、民族、性差などを軸に「アジア」そして「日本」の境界線を問い直す、アイデンティティ概念の幅広さを感じさせる1冊です。
アイデンティティが人を殺す
集団への帰属の欲求とは何を意味するのでしょうか。この欲求が他者に対する恐怖や殺戮へとつながってしまうのはなぜなのでしょうか。本書を通底するのは、このような問いです。
グローバル化の進展は、さまざまな文化をもつ人たち価値観やライフスタイルの基盤を揺るがし、ときに偏狭で排他的な帰属意識を生み出してしまっています。複数の国と言語、そして文化伝統の境界で生きてきた著者は、本書のなかで新しい時代にふさわしいアイデンティティのあり方を模索することを試みます。
そこで鍵となるのが「言語」です。言語を自由に使う権利を守ること、言語の多様性を強固にし、生活習慣のなかに定着させること、そこに世界の調和への可能性を筆者はみるのです。刊行後、大きな反響を呼んだ名エッセイ、待望の邦訳です。
最後に-KAYAKURAでは他にも社会学本を紹介しています!-
本記事では、アイデンティティについて学ぶためにおすすめの本を紹介してきました。KAYAKURAでは、アイデンティティを含め他にも社会学を学ぶためにおすすめの本を紹介しています。ぜひあわせて読んでみてください!